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◆第1章:女子トーク(1)






「お電話ありがとうございます。株式会社エージェーピーの森川でございます。」

ごくごく丁寧な言葉遣いと、柔らかな物腰。声のトーンは少し明るめに、でも落ち着いて。
それが、通販の電話での応対の基本です。

ここは私の会社。私、代表取締役社長。37歳。
平日の日中は、フルタイム勤務で自分のオフィスで働いている。
主人と子供が3人。子供の年齢は6歳、2歳、1歳。
区立の認可保育園に3人とも預かってもらいながら、仕事をしている、はたからみると、バリキャリ系の働くママだ。

(カタカタカタカタ…パソコンで文字を入力する音が聞こえる)

「森川さん、パフの在庫残り少なくなりましたー。」
「あ、はーい。えーと、前回の発注、いつだったっけー・・・。ちょっと待ってねー…。」

社会人になってからは、仕事は早くて、バリバリなんでもこなすのは得意だった。特にパソコン作業なんかはすごく早く仕上げられる。

でも、実は少し頼りない社長かも知れない。

毎晩、ストレス解消と称して、夜中の1時か2時頃まで自宅で酒を飲み、翌朝8時にのそのそと起床。二日酔いの頭のまま、既に目が覚めて元気いっぱいの子供たち3人に朝ごはんを食べさせる。
朝食のパンを持ったまま、TVの前とダイニングテーブルを行ったり来たりする次男2歳を叱り、いつまでも着替えない長男6歳を怒鳴る。1歳の長女は、出してあるパンをちぎって、そこら中に放り投げ、パンを取り上げると、寄こせと泣きわめく。
主人に3人分の保育園で必要な物を入れるカバンの準備を任せて、私はと言うと、毎朝子供たちを怒ってばかりいる。
朝9時頃、自転車で、遅刻ぎみに子供3人を主人と一緒に保育園に送り届け、急ぎ足で出社。
会社に着くと、PCでメールソフトを開いてメールを受信。いらないメールを削除しながら、広告の効果計測データを眺め、売上を上げる為に、次に何を仕掛けるべきかを考える。でも思いつかないからベランダにタバコを吸いに出る。

ベランダから戻ると、電源を入れ、水とカプセルをセットしたドルチェグストを見て、コーヒーを入れるのを忘れていたのに気付く。
レバーを倒して、コーヒーを入れながら、さっき考えていた事は何だったっけ、ともう忘れている。
夕方は、19時15分がお迎えの時間だから、それまでに今日やる事を全て終わらせなければならない。途中、お客さんからの電話が掛かってくる事を想定して、なるべく早めに何でも終わらせなければならない。
マーケティングデータを分析しながら、季節に合わせて戦略を考え、前年度の売上から来月の売上を予測する。良い月もあれば、悪い月もある。
予測に従って、仕入れと在庫の数を調整し、資金計画を練り直す。

他にも様々なやる事と考える事が満載の毎日は、時間とプレッシャーとの戦いだ。

だからだろうか。夜になると何故かお酒を飲みたくなる。タバコは辞めたいのに辞められないから、辞めるのを諦めた。
 
一緒に働くパート勤務のママ達はみんな優秀で、毎日の受注から出荷までのルーティンワークは彼女たちが支えてくれている。
従業員は常勤のパートが2名、内1名は1歳半の赤ちゃん連れで勤務している。
他に週1回のパート勤務が1名。週2,3日は、自宅に家事代行のアルバイトも雇っている。
小さな会社です。

書類が山になって積んである、散らかったデスクで、私は、PowerPoint(パワーポイント)で書きかけていた、資料「20年間の分析と考察、状況の整理と目標達成までのプロセス」を一旦最小化すると、仕入れ注文書のフォルダを代わりに開いた。

「あー、前回結構前だもんねぇ。という事は年末にもかかるし、多めに発注しとかないとまずいかー。
 でも、ホントごめん、私、ちょっと忙しいんで、計算からお願いしてもいいですか?」
「あ、はーい。いいですよー。」
「他の業務もあるのに、すみませんね…。よろしくお願いします…。」

赤ちゃん連れで勤務するママは、刈谷(かりや)さん。私のコーチングの先生の知り合いで、紹介してもらった。
うちの会社が初めて人を雇うという段階から来てくれている古株で、キレイ好き、頼りがいのあるタイプ。目鼻立ちくっきりのナチュラル超美人。36歳。
もう1人のほうは、金(こん)さん。私の結婚当初に居たマンションの2階に住んでいたママさん。50歳とは思えない若さと美しさで、最初仲良くなった時は、私は同い年だと思っていた。
彼女の二人目の子供の年齢が、私の長男と1つ違いという事もあり、平日の夜はよく2階に子供を連れて遊びに行って、一緒にご飯とお酒を飲んでいた。

ここ2週間の間、私は週末の海外旅行を控え、事前準備や下調べなどに没頭していた。食事も取らずに調べ物をしたり、考え事をしたりしていたので、それを分かっている二人はテキパキと仕事をこなしてくれていた。

「差出表(さしだしひょう)印刷しました?」
「あ、まだー。これから出しまーす。」
「はーい。」
【差出表の印刷】は、今日の発送物の処理の大半が完了した合図だ。
2人の息の合った仕事の効率の良さに甘えて、私は、切り出した。

私「ねぇ、皆さん、ちょっとご相談があるんですけど、聞いてもらえますか?」
刈谷さん「どうしたんですか、そんなに改まって。」
私「いやぁ、ちょっとプライベートな事でして…。昨日、金さん早く帰っちゃったから話出来なかったし。」
金(こん)さん「あ、昨日携帯ショップ行かないといけなかったから、そそくさと帰っちゃってごめんなさいね。アハハハ。」

二人はPCの画面でタイムカードの「退勤」を打刻すると、向き合って座ってくれた。

私「いやー、実はこんな資料を作ってみましてですね・・・。」
刈谷さん「何々、20年間の分析と考察、状況の整理と目標達成までのプロセス??」
金さん「あぁ、これね、昨日言ってたやつね」

私「私、今週末ベトナムのホーチミンと、タイのバンコクに行くって言ったじゃないですか。」
二人「言ったね。」
私「タイのバンコクで会う同級生なんですけど、実は元カレなんだよね。」
二人「あー、やっぱりね。」
私「あれ、驚かないの?」
刈谷さん「だって最近食欲無いっていって、賄いのランチも行かなくなったし。」
金さん「舞い上がってるわよね、ずっと。もう恋してるなって感じしたもの。」
私「いやいや、恋とか言わないでくださいよ。ホント悩んでるんだから。」
刈谷さん「だから全然ご飯食べて無かったんですね。」
金さん「何々ー、ダイエットして綺麗な私を見せちゃうワケ???」
私「イヤイヤ、違うのよ、ホント。ホント食欲が無くなっちゃっただけなの。いやね、それで、ちょっと聞いて。」

そう言って、私は、手元の資料の1ページ目を開いた。
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【事実検証1 接点】

16歳又は17歳
・告白して付き合う。キスして別れる。

19歳~21歳までの間のいつか
・川崎市の生田の家に居る時に電話をもらう。

36歳
・3人目の妊娠中にSNSでメッセージが来る

37歳
・SNSでバンコク行きを告げる
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私「まずね、彼との接点ですが、高校の同じクラスの人でして、1年の時の一瞬だけ付き合ってたんです。」
二人「ほうほう」
私「そんで、まぁ、チューして別れたんですよ。」
金さん「あらあら、いいわねぇ。」

私「そんで、次の接点は、私が17歳の高校2年の年に高校辞めて上京した後なのね。CD出す前か、後かは忘れちゃったんだけど。あ、成人式の後かな?」
刈谷さん「あれ、森川さん高校中退してるんですか?」
私「そうなの。高校1年の終わりでね。音楽やりたくて上京したんだよね。で、19歳の時にTVに出て、20歳でメジャーデビューしてCD出してる。」
刈谷さん「そうなんですか?全然知らなかった!」
金さん「すごいわよねぇ。」
私「いやいや、売れてませんから。そんで、その時あたりに彼から電話を貰ったのは覚えてるんですよ。」

私「そんで、次の接点は、3人目の子を妊娠中に、鹿児島の実家にお正月帰ってる時のSNSのメッセージです。」
二人「え?これだけ?」
私「そう。付き合うも何も、学校の帰り1回一緒に帰ったくらいなのと、家に1回遊びにいったくらいなの。」
刈谷さん「それで、チューしてんの?」
私「あ、いやいや、まぁ、うん。ままま、その理由は、次のページね。あ、その前に。最後は2週間前にバンコク行くって連絡したのよね、SNSで。彼との接点この合計4回ね。で、次ね。」

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プロフィール

森川愛(あいぷり)

Author:森川愛(あいぷり)
2000年にデビューした作詞作曲家、歌手です。
現在は小説を執筆中です。(映画化する為に奔走中です)
得意な事は、歌、司会、前世占い、
ライティング、インターネット通販、アフィリエイト広告コンサル、会社経営、
周りを元気にする事など。

公式サイト
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